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不動産を売却するための手続きを他の人に任せるときには、慎重に対応する必要があります。
たとえば、重要な契約を他人に任せたことで、「思っていたのと違う結果になった」というトラブルが起きてしまうリスクがあるからです。
このようなトラブルの多くは、代理人を頼むときの「委任状の書き方」が原因となっている場合が少なくありません。
そこで今回は、
- 不動産の売却を委任するのはどんな場合か?
- 委任状の作成方法や注意点
- 委任した際に起こりうるトラブル
といったことについて解説していきます。
また、不動産の売却を委任する際の委任状の記載例も用意しているので、参考にしてください。
もくじ
不動産の売却を委任する必要がある5つのタイミング
不動産の売却に限らず、あることを自分ではできない(したくない)事情があるときには、「代理人」を立てて、代わりに行ってもらうことができます。
代理人に委任することを考える5つの場面
不動産を売却しようというときに、代理人に委任することが考えられるのは、次のような場合です。
- 役所で書類(印鑑証明書など)の交付を受けなければならないが平日の昼間にいけない
- 相手方との契約締結の日に仕事を休めない
- 遠方にある不動産を売却したいが、何度も現地に出向くことが難しいとき
- 海外で暮らしている人が、日本国内の不動産を売却したいとき
- 入院していて自分では手続きを行えない場合
共有名義の不動産を売却するとき
上記の場合とは別に、共有名義の不動産を売却するときにも、代理人に委任することが考えられます。
共有名義の不動産を処分(売却)には、「共有持分権者全員」の同意が必要だからです。
名義人が増えるほど、不動産を売却するための手続きは面倒になります。
たとえば、契約書への署名も、共有持分権全員の署名・押印が必要となります。
そこで、共有名義人のうちの1人が、他の共有名義人(持分権者)の代理人となって手続きを進めれば、「全員が集まらなければならない手間」を軽減することが可能です。
不動産売却時に委任状を作成する際に必要な内容
代理人を立てるときには、「委任状」を作成する必要があります。
後のトラブルを避けるためにも、「本人が代理人にその手続きを任せた」ということを、取引の相手がきちんと確認できるようにする必要があるからです。
「委任状」を作成するときには、「誰が」、「誰に」、「何を」委任したのかを明確にする必要があります。
たとえば、実務の上では、委任状には下記の項目を必ず盛り込みます。
- 委任者(代理を頼んだ人)の氏名・住所
- 委任者の自筆による署名と押印
- 受任者(代理を頼まれた人)の氏名・住所
- 受任者(代理人)に委任した行為の内容
不動産売却時の委任状のひな型・テンプレートを紹介
売買などの委任状には、特段の法定の様式があるわけではありません。
必要な事項が記載されていれば、どのようなフォーマットで作成してもかまわないのです(ただし、不動産会社によっては指定の様式を備えている場合もあるでしょう)。
以下では、不動産を売却する場合の委任状の最もシンプルな記載例を示しておきます。
委任状
私は、
〇〇市〇〇区✕✕町123-4 (代理人の住所)
〇〇 〇〇 (代理人の氏名)
に、下記の権限を委任します。
・別記物件の売買契約に関する一切の権限
・別記物件の売買に伴う所有権移転登記等に関する権限
・別記物件の売買代金の受領に関する権限
記
・土地
所在
地番
地目
地積
・建物
所在
家屋番号
種類
構造
床面積
以上
令和〇年✕月✕日
委任者
住所 ◯◯市◯◯町◯丁目◯番地
氏名 ◯◯ ◯◯ 実印
委任状を作成する際に注意すべき5つのポイント
委任状を作成するときに、特に注意すべきポイントは、次の5点です。
- できる限りシンプルな記載を心がける
- 委任者に与える権限は明確に記す
- 白紙委任状は絶対にダメ
- 対象となる物件の情報も明確に
- 委任状の押印は実印で
委任状はシンプルに!
委任状を作成するときには、できるだけ「シンプルに記載する」ことが大切です。
委任状に書かれた内容が難しければ、当該委任行為に関わる人たちの間に「誤解」などを生じさせる可能性が高くなるからです。
「重要な契約に用いる文書だから、専門用語を用いなければいけない」ということを考える必要は全くありません。
「何を任せたのか」を明確にする
代理人を立てる際に、最もトラブルになるのは、「代理人に与えた権限が不明確」である場合です。
特に、
- 委任状の記載が不十分な場合
- 委任状の書き方が難しすぎる場合
には、「代理人の権限の範囲」が明確ではないことが原因で、後にトラブルが起きてしまうことが少なくありません。
たとえば、実際の売買は、
- 価格の交渉
- 価格以外の諸条件(引き渡し時期など)の決定
- 売買契約の締結
- 代金の受け取り
- 物件の引き渡し
- 登記手続き
と細かな段階をふんで手続きが進められていきます。
委任状に「売買を代理人に委任する」とだけ書いただけでは、上記のうちの「どこまでの権限を与えたか」は明確とはいえないのです。
「すべての行為を委任する」という場合であれば、「一切の権限(を委任する)」と委任状に記載すべきですし、一部だけを委任した場合には、「〇〇の権限を委任する」と明確に記載すべきです。
また、代理人を定めた場合(委任した場合)には、その目的を達成するための方法は、「代理人任せになる」ことにも注意する必要があります。
たとえば、「代理人に、不動産を売却する一切の権限を委任する」と委任状で定めた場合には、その不動産を「500万円で売るか」、「1億円で売るか」、「誰に売るか」といったことは、代理人の判断に委ねられると理解できる余地があるのです。
「そんなことまで頼んだつもりはない」という事態を招かないためにも、委任する行為については、具体的に、わかりやすく記載することが大切です。
「白紙委任状」は絶対にダメ
「〇〇さんに委任します」ということだけを記載して、具体的な委任内容を記載しておかない、いわゆる白紙委任状は、とても危険です(法律実務では、「白地(しらじ)委任状」と呼ぶことが多いです)。
代理人の「好き勝手」に委任内容を書かれてしまうことで、予測外のトラブルを招く可能性があるからです。
- 代理人を信用していた
- 代理人の方が詳しいから細かいことは任せた方が良いと思った
ということもあるかもしれませんが、委任状の記載内容は、「委任者本人」が明確に定めることが何よりも大切です。
※白紙委任状によるトラブルが起きた場合については、別に詳しく解説しています。
「何を任せたのか」を明確にする
不動産を売却する手続きを委任するときには、売却対象となる不動産の物件情報を記載する必要があります。
委任した行為の「対象」となるものを特定しなければならないからです。
法律の実務では、不動産の特定は、登記簿謄本に記載されている次の情報によって行うのが一般的です。
- 不動産の所在
- 地番
- 地目(宅地・雑種地など)
- 地積(土地の面積のこと)
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
これらの情報は、不動産の所在地を所管する法務局で不動産登記簿謄本を取得することで確認できます。
遠方で法務局に出向くのが難しいときには、郵送してもらうことも可能です。
委任状には「実印」で押印する
委任状には、必ず受任者が署名をした上で押印します。
押印には、「実印」を必ず用います。
実印とは、印鑑登録がなされている(印鑑証明書のある)印鑑のことをいいます。
押印に実印を用いるのは、「確かに本人が委任した」ということを明らかにする必要があるからです。
不動産売却を代理する際に必要になるもの
代理人によって不動産を売却するときに必要となるものについて整理しておきましょう。
代理人自身が用意すべきもの
代理人となる人が用意しなければならないものは、次のとおりです。
- 代理人の本人確認書類(運転免許証・パスポートなど)
- 代理人の実印
- 代理人の実印の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
これらのものは、代理人の本人確認のために必要となるものです。
委任者(売主本人)から預かっておかなければならないもの
不動産の売買契約を締結するために、売主本人から預かっておかねばならないものは、次のとおりです。
- 委任者(売主本人)の実印が押された委任状
- 委任者の実印の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
- 委任者の実印
- 委任者の本人の住民票(発行から3ヶ月以内のもの)
- 権利証または登記識別情報
- 仲介手数料の半金
- 印紙または印紙税
- その他(土地の測量図・マンション管理規約・付帯設備表など)
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代理人を選定する際に注意すべき3つのポイント
代理人を選ぶ際には、当然のことですが「誰に代理人を頼むか」ということはとても大切です。
安易に「頼みやすいから」という理由で代理人を選んでしまったことで、トラブルになることも珍しくありません。
「信頼できる人」に頼むこと
当然のことですが、不動産売却の手続きを代理人に頼むときには、「信頼できる人」に頼むことも最も大切です。
代理人には、売却にかかる手続きを行う権利を与えるだけでなく、印鑑(実印)やさまざまな重要な書類も預けます。
そのため
- 委任状を改ざんされ、受任者の意図と異なる取引を行われる
- 登記簿謄本や住民票に記載されている個人情報などを悪用する
- 受任者から預かった実印・印鑑証明書を悪用する
- 買主から受領した売却代金(手付金)を持ち逃げする
といったリスクを抱えることになるからです。
「最低限の知識」を備えている人に頼むべき
他人に何かを委任する場合は、「難しいこと」、「面倒なこと」が対象となることが少なくありません。
たとえば、不動産を売却でも、「必要な知識がない」ことで正しい判断ができないという場合もあり得ます。
特に、家族(配偶者や子)に委任して不動産を売却するという場合は、高額な資産を処分するため、判断ミスが大きな損失につながりやすくなります。
それぞれのケースにおいて問題となる(判断が難しくなる)ケースを想定し、必要な知識を備えられる人に委任すべきといえるでしょう。
あらかじめ不動産業者と顔合わせのできる人
不動産の取引は、売却をするこちらだけでなく、購入する相手方、仲介する不動産業者にとっても、重要な取引です。
「見ず知らずの他人」、「一度も会ったこともない人」が突然「代理人です」といって現れても、「相手にされない」、「認めてもらえない」可能性があります。
したがって、代理人には、「事前に仲介業者(や相手方)との顔合わせ」に同席してもらえる人を選ぶ必要があります。
□「代理人」と「使者」の違いとは?
代理人と似た仕組みには、「使者」と呼ばれる仕組みがあります。
「使者」と「代理人」との一番違いは、「自分で決定することができるかどうか」にあります。
たとえば、ある契約をキャンセルする場合を例にすれば、次のように違いを説明することができます。
- 「本人が契約をキャンセルすると言っています」と伝えるだけなのが使者
- 契約の相手方と交渉し「キャンセルするかどうかの最終判断をできる」のが代理人
不動産の売却の場合でも、たとえば、必要な書類を「不動産屋に届けるだけ」であってり、「相手方が示した金額で売ることを承諾した」と不動産屋(や相手方)に「伝えるだけ」であれば、使者となります。行為を頼まれた者が「自分の意思」を介在させる余地がないからです。
他方で、「契約を締結してくる(ハンコをついてくる)」ことまで任せるのであれば、代理人となります。
すでに、「不動産を売却することを本人が決めている」という場合であっても、「契約を締結する」ということは、ただの「伝達行為(表示行為)」ではないからです。
すこし砕けた説明になりますが、
テレビアニメのサザエさんで、カツオくんがサザエさんから「三河屋さんに『お醤油を配達してほしいと伝えてきて』」と頼まれたケースは、使者に該当します。
他方で、「魚屋さんでサンマを買ってきて」と頼まれたときは代理ということができます。
※便宜上の例なのでカツオくんが小学生(未成年)であることは度外視しています。
「無権代理」と「表見代理」とは?
代理人を立てて契約を結んだときのトラブルとしては、「無権代理」と「表見代理」となるケースがあります。
どちらも一般の人には少しわかりづらい問題ですが、要点を簡単に確認しておきましょう。
無権代理とは?
無権代理とは、権限のない者によって代理された場合のことをいいます。
最もわかりやすい例は、「代理を頼んでもいない人が勝手に代理人を名乗った」というような場合です。
たとえば、
不動産の所有者の家族が、委任状などを偽造し勝手に不動産を売ってしまった
という場合が挙げられるでしょう。
「勝手に他人の財産なんて売れるの?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、認知症となった高齢者の家族が、本人の意思を全く確認せずに、勝手に所有不動産を処分したというケースを考えれば、必ずしも珍しいケースではないといえるでしょう。
無権代理された場合はどうなるのか?
無権代理人による法律行為(契約など)は、本人(代理されてしまった人)の「追認」がなければ効果は生じません(民法113条)。
そのため、無権代理人と取引をした者(無権代理人から不動産を買った人)には、本人(不動産所有者)に対して、「催告権」が与えられています(民法114条)。
つまり、相手方(購入者)は、「無権代理人が不動産を売却したこと」を認めるかどうか「ハッキリ決めて欲しい」と本人(所有者)に要求できるということです。
なお、この催告に対し、本人からの返答がないときには、「追認を拒絶した(売却を認めなかった)」ということで確定します。
したがって、「他人に勝手に不動産を処分されてしまった」というときには、「無視を決め込む」ことも可能です。
とはいえ、トラブルの早期処理や、深刻化を防止するという観点では、「追認しない」と明確な意思を示した方がよい場合が多いでしょう。
なお、無権代理人の行為によって、相手方(購入希望者)に損害が発生したときには、無権代理人に対して損害賠償を請求することができます(民法117条)。
表見代理とは?
表見代理とは、簡単に言えば、「一見すると代理権があるように見えるが、本当は代理権がなかった場合」のことをいいます。
「本当は代理権がない」という意味では、表見代理も無権代理の一種です。
しかし、
- 無権代理では「本人の保護」が優先される
のに対し、
- 表見代理では「取引の相手方の保護」が優先される
という点で大きな違いがあります。
表見代理が問題となる場合としては、次の場合が考えられます。
- 他人からみたら代理権を与えられていると錯覚できる場合
- 代理人が与えられた権限を超えて行為をした場合
- 代理人が権限消滅後に行為をした場合
以下では、不動産を売却する場合を例に、表見代理となる具体例について解説します。
代理権を与えたように誤解される表示があるとき
「本当は代理権を与えていない」が、「他人にとっては代理権を与えているように見える場合」は、理屈の上の表見代理の典型といえます。
とはいえ、実際には、「代理権を与えていないのに代理権を与えているように見える場合」を想定することは簡単ではありません。
白地委任状を交付したようなケースは、「白地委任状を交付した」という時点で「代理権を与えた」と考えることもできる(全く代理権がないとはいえない)からです。
※裁判例には、「白地委任状を交付したことは、「具体的な代理権は(無権代理人が)勝手に補充しても良い」という意味で、「代理権を与えたかのような表示」といえると判断したものがあります。
代理人が権限外のことを行った場合
AがBにあることを委任していたが、「Bが委任されたことを超えて代理人として何かを行った」という場合が該当します。
たとえば、不動産の所有者であるAが、その不動産の管理をBに委任していたときに、Bが「管理行為」という権限を超えて、Cに売却してしまったという場合には、表見代理(権限外行使)となる可能性があります。
この場合には、
- AがBに対して「不動産の管理について代理権を与えた」ことが事実である
- Cが「Bに不動産の売却についての代理権があることを信じられるだけの理由」がある
ときには、Aは、BがCに不動産を売ったことを取り消したりすることはできません。
代理権消滅後の表見代理
以前は確かに代理権を与えていたが、委任を取り消した(終わった)後に、過去に代理人だった者が「代理人であると称して委任された行為を行ったとき」にも表見代理となります。
たとえば、Aが不動産を売却しようとBに委任したが、購入者が見つからずに委任を終了させた後に、BがCに不動産を売却したというようなケースが該当します。
この場合は、Cが「Bの代理権消滅を知っていた」場合を除いて、BによるCへの売却を取り消すことはできません。
表見代理によって本人に損害が生じた場合
表見代理に該当する場合には、原則として、代理人との取引に応じた(代理人から不動産を買った)相手方の保護が優先されます。
そのため「本当は売るつもりがなかった不動産を売られてしまったこと」で本人(所有者)には損害が発生します。
この損害は、本人が表見代理人に損害賠償請求することで対応します。
白紙委任状は「表見代理」を起こしやすい
親しい人を代理人に立てるときには、白紙委任状を交付しがちです。
- 信頼していたから
- 代理人の方が詳しいから
- 手続きがどう進むかわからないから
から委任状作成も代理人に任せておいた方が良いと考えることもあるかもしれません。
しかし、白紙委任状を交付したことで、「こんなはずではなかった」というトラブルが起きたときには、ほとんどのケースで「表見代理」が成立すると考えられます。
したがって、「そもそも売るつもりではなかった」、「その条件(金額)なら売っていない」と本人が考える場合でも、取引の相手化の保護が優先されてしまいます。
白紙委任状の交付は、トラブルの原因にしかならないので、絶対にやめましょう。
まとめ
何かを「誰かに代わってやってもらう」のは、忙しい人には、とても便利なことです。
また、「難しい」、「面倒」と感じる問題を対応してもらえれば、自分の負担を軽くすることもできます。
しかし、「誰かに代わりにやってもらう」ということには、「リスク」もあることに注意する必要があります。
委任状は、代理人を立てる際の「リスクを軽減する」ため(相手方を保護するため)にとても重要なものです。
委任状を作るのが面倒と感じることもあるかもしれませんが、手を抜かず、きちんとした委任状を必ず作成しましょう。
わからないことは、仲介業者に問い合わせてみるのもよいと思います。